近年、固体高分子形燃料電池(PEFC)用触媒として、低白金化および高活性化の点からコア-シェル触媒が注目されています。AuやPdなどのコア粒子の表面に数原子層のPtを配置するコア-シェル化により、Pt換算の質量活性が飛躍的に高められ、耐久性も向上することは、すでに実証されています。コア-シェル粒子に関しては、低コストの観点からコア金属のサイズや種類(卑金属)が重要なポイントであると考えられます。卑金属からなるコアとPtシェルからなるコア-シェル粒子は低コストの観点からは望ましい組み合わせですが、コア金属の溶出が懸念されます。これを防ぐための方法として、例えばコア金属とPtシェルの間にAu原子層を保護層として配置することが考えられますが、粒子全体のサイズを小さくするにはコア金属を小さくする必要があります。また、現在知られているコア-シェル触媒のコア金属として用いられている AuやPdは5 nm以上の平均粒径をもっています。また、コア金属の粒子サイズがコア-シェル触媒の酸素還元反応(ORR)活性や耐久性に及ぼす影響についてはまだ十分には検討されていません。本研究グループでは、これまでにPt-カルボニル多核錯体を合成し、これを前駆体として作製したPtナノ粒子担持カーボンブラック(Pt/CB)触媒は、ORRに対して高い質量活性(MA)を示すことを見出しています(単分散Pt/CB触媒の説明を参照ください)。上記の手法を応用展開し、コアナノ粒子の粒径をより小さくすることにより、Mコア-Ptシェル(M = Au, Pd)触媒のORRに対するMAを向上させることを目的として、Mコア-Ptシェル(M = Au, Pd)触媒のORR活性ならびにその耐久性を評価しています。最近得られました結果の一部をご紹介します。
安定化剤としての1 mM ポリビニルアルコール(PVA)を含む0.1~1 mMのKAuCl4水溶液にCOガスを吹き込んだ溶液の紫外可視吸収スペクトルを図2に示します。KAuCl4水溶液中のAu塩化物塩は、紫外可視吸収スペクトルにおいて約290 nm付近に吸収ピークを持つことが知られています。COガスを吹き込むと、溶液の色は薄い黄色から赤茶色に変化し、500~550 nmにAuナノコロイドの生成を示す表面プラズモン共鳴(SPR)による吸収ピークが認められました。SPRピークはKAuCl4の濃度が小さくなるほど小さくなり、短波長側にシフトしました。この挙動は、溶液中のAuナノコロイドの粒径がより小さくなったときに見られる特徴と一致しています。したがって、KAuCl4の濃度が小さいほど、より小さなAuナノ粒子ができていると考えられます。
次に、KAuCl4水溶液にCOを吹き込むことによるAuナノ粒子生成の反応機構について、COが還元剤として働いていることを調べるために、ガスクロマトグラフィーを行いました。COガスを吹き込んだ後、KAuCl4水溶液は2分程度で薄い黄色から赤茶色へと変化すると共にGCよりCO2が検出され、時間の経過とともにCO2量が増加しました。他方、超純水のみでは、COを吹き込んでもCO2は検出されませんでした。これらの結果から、式(1)のように、Auナノ粒子が生成したと考えられます。
AuCl4- + 1.5CO + 1.5H2O → Au0 + 1.5CO2 + 3H+ + 4Cl- (1)
図3に1 mM PVAを含む0.25 mM KAuCl4水溶液に、COを吹き込むことにより合成したAu/CB触媒のX線回折(XRD)パターンを示します。XRDパターンにはAuの(111)、(200)、(220)、(311)に帰属されるピークおよびショルダーが認められました。このことから、Auナノ粒子は面心立方構造であると考えられます。また、Au(111)にScherrer式を適用して求めた結晶子サイズは3.3 nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)から求めた粒径(3.3±0.7 nm)とよい一致を示すことがわかりました。
熱重量分析より求めたAu/CB触媒のAu担持率は約17 wt.%であり、仕込み比に近い値が得られました。また、不活性雰囲気下で熱処理を行うとPVAは炭化されることがわかりました。また、400° Cで70%以上のPVAを除去することができ、粒径の増加幅は小さいことがわかりました(3.5±0.7 nm)。
Au/CBナノ粒子触媒を用いて、Cuをアンダーポテンシャルでポジション(Cu-UPD)とCuとPtとの置換析出を組み合わせた手法によりPt/Au/CB触媒を作製しました。Au/CB電極にはAuに特徴的な酸化還元挙動が認められた。これに対して、Pt/Au/CB触媒では Ptシェルを析出させる回数が増えると1.2 V vs. RHE付近のAu酸化物の還元ピークが小さくなり、0.4 V vs. RHE 以下のPtへの水素吸脱着および0.6 V vs. RHE付近のPt酸化物の還元ピークが認められるようになりました。
Koutecky-LevichプロットからAu/CBのORRは2電子還元機構で進行しましたが、Pt1/Au/CBおよびPt2/Au/CBのORRはいずれも4電子還元機構で進行していることがわかりました。これらの結果から、Au上にPt原子層が被覆されていることが示唆され、Pt1/Au/CBおよびPt2/Au/CBのPt被覆率は、それぞれ約0.73および0.97と見積もられました。Pt1/Au/CBおよびPt2/Au/CBに対する0.9 V vs. RHEでのMAを市販のPt/CB触媒(Pt/CB-TKK)と比較して図4に示します。Pt1/Au/CBおよびPt2/Au/CBのMAPtは、市販の触媒よりも大幅に向上しました。特に、Pt1/Au/CB触媒のMAPtは、Pt/CB-TKKの5.1倍であることが分かりました。MAPtの向上は主にコア-シェル化によるPt原子の有効利用によるものと考えられます。図5に、Pt1/Au/CBおよびPt2/Au/CBの耐久性を示します。Pt2/Au/CB触媒は、10000サイクル後も約75%と高い比表面積を維持し、Pt/CB-TKK触媒よりも耐久性が高いことがわかりました。
Pd(CH3COO)2 を前駆体として用いた場合には、安定化剤がなくてもPdナノ粒子を作製できることを見出しました。Pd(CH3COO)2 から作製したPdナノ粒子の粒径に及ぼすPd(CH3COO)2 濃度の影響を図6に示します。Pd(CH3COO)2 濃度が低くなるとPdナノ粒子の粒径は減少しましたが、0.1 mM以下では約3.1 nmで一定になりました。これは、Pdナノ粒子の生成時にはずれたカルボキシレート配位子が粒子表面に吸着することにより安定化剤として働いたためと考えられます。 1 mMおよび0.25 mMのPd(CH3COO)2 を前駆体として作製したPd/CBナノ粒子触媒を用いて、Cuをアンダーポテンシャルでポジション(Cu-UPD)とCuとPtとの置換析出を組み合わせた手法によりPt/Au/CB触媒を作製しました。対流ボルタモグラムおよびKoutecky-Levichプロットより、Pt/Pd/CB は酸素還元反応が4電子還元で進行することがわかりました。Pt1/Pd/CBのMAは、市販のPt触媒(Pt/CB-TKK)と比べて非常に高い活性を示すことがわかりました(図7)。これは、Pt/Pd/CB 電極では、PtのみよりもSAが増大したことに起因します。また、Pt/Pd(1.0mM)/CBのPtの耐久性試験(60 °C)の結果から、Pt/Pd(1.0mM)/CBのPtの耐久性は、Pt/CB-TKK触媒と比べて同等以上であることがわかりました。