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研究テーマ

環境に調和した持続可能な社会の発展に貢献するため、分子・原子レベルで構造が制御された不均一系触媒・光触媒を開発するとともに、クリーンエネルギー製造や高効率ファインケミカル合成を実現する触媒プロセスの構築に取り組んでいます。

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可視光応答型光触媒による太陽光と水からのクリーン水素製造

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高機能不均一系触媒を用いたファインケミカル合成

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環境負荷低減を目指した有害有機物浄化触媒、吸着材の開発

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近赤外分光法による触媒表面に吸着した分子クラスター種の構造評価


 
 

研究テーマ(詳細)

可視光応答型光触媒による太陽光と水からのクリーン水素製造

 光触媒は、光を吸収して触媒作用を発現する物質であり、無尽蔵な太陽光をエネルギー源として利用可能であることから、エネルギー・環境問題を解決する上で極めて有望です。しかしその実用的応用に向けては、太陽光の大部分を占める可視域の光を利用して反応を駆動できる可視光応答型光触媒の開発が必要不可欠です。
 我々は、有機・無機ハイブリッド材料の特徴を利用した可視光応答型光触媒の開発を行っています。多孔性金属錯体(英語で、PCP: Porous coordination polymer、または MOF: Metal-organic frameworkと呼ばれる)は、金属イオンと架橋性有機配位子が配位結合を通して三次元多孔性骨格構造を形成した有機無機ハイブリッド材料です。金属イオンと架橋性有機配位子には無限の組み合わせが存在し、その組み合わせ選定を通して、無機的、有機的な性質の制御のみならず、多孔性構造の制御も可能です。このような特徴を活かし、水から水素を生成することが可能な可視光応答型PCP光触媒、および酸素を生成可能な可視光応答型PCP光触媒を開発し、それらを組み合わせた光電気化学システムを構築することで、太陽光と水から次世代エネルギーとしての水素を高効率に製造する研究に取り組んでいます

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pcp-electrodes

図1,2 PCP/MOFの形成スキームと可視光応答型PCP/MOF光触媒を用いた水分解水素製造システム

 実際に、有機部位に可視光吸収能を、無機部位に水素生成能を構築し、かつ分子サイズの均一な細孔を有したPCPを創製することで、可視光照射下で効率よく水素の製造が可能な新規光触媒の開発に成功しました。また、鉄酸化物クラスターを有するPCPを用いると、可視光照射下で光触媒酸素生成反応が進行することも見出しています。

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図3,4 新規な可視光応答型PCP光触媒による水素生成および酸素生成反応

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高機能不均一系触媒によるファインケミカル合成

 ファインケミカルは、化成品や医薬品、またその合成中間体として利用される、希少で高付加価値な化合物の総称であり、その合成には、化学反応を選択性良く促進可能な触媒材料の開発が必須となります。金属錯体などの均一系触媒は、有効な触媒として多用されていますが、触媒の分離回収、再利用の観点から不均一系触媒への展開が望まれます。
 我々は、有機無機ハイブリッド材料である多孔性金属錯体(PCP/MOF)の構造多様性に注目し、その有機部位に錯体固定化サイトを構築した後、錯形成反応を行うことで、不均一系金属錯体触媒が開発可能であることを見出しました。このようにして得られた触媒は、エポキシ化反応に高い活性を示し、さらに複数回の再利用も可能であることを確認しています。

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図5,6 不均一系触媒の設計指針と活性評価試験の結果

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環境負荷低減を目指した有害有機物浄化触媒、吸着材の開発

 揮発性有機化合物(VOCs)は、大気汚染および健康被害の原因物質となるため、無害な二酸化炭素と水まで完全分解する必要があります。安全性および省エネルギーの観点から、分解温度の低温化が望まれますが、不完全燃焼に伴う有害物質の発生が懸念されます。そのため、低温でVOCsを完全分解可能な触媒の開発が求められています。
 我々は、基質の濃縮効果、活性種の高分散担持が期待できる多孔体に貴金属触媒を担持することで、低温条件下における触媒活性の向上を目指しました。VOCの分解反応活性は、貴金属の粒子径を制御することで向上し、さらに、アルカリ金属を添加することで、低温で完全分解可能な触媒の開発に成功しました。

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図7 開発触媒のイメージと反応活性

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近赤外分光法による触媒表面に吸着した分子クラスター種の構造評価

・近赤外分光法(NIR)とは
赤外分光法とは試料に対し赤外光を照射し、どのような波数に吸収があるかを 見ることで官能基や化学状態に関する知見を得る手法である。触媒の分析に おいては、触媒表面にプローブと呼ばれる分子を吸着させると、表面状態の違い によりプローブの吸収波数がシフトすることを利用して様々な知見を得ることが できる。一般には波数の小さい中赤外分光法(MIR)が用いられるが、波数の大きい 領域であるNIRではMIRと比べ、吸収強度が弱く、複雑に観測され、またピーク シフトが明瞭に現れるなどの差異がある。即ち、高濃度の試料でも吸収が飽和 しにくく、化学状態について得られる情報も多い。

・アンモニアをプローブとした酸点評価
アンモニアをプローブ分子とした赤外分光測定は、固体酸の酸性質の評価手法 として知られている。しかし一般に用いられている中赤外領域では、酸性質に 大きく寄与するとされる水がブロードかつ強い吸収を持っているため、 このアンモニア種由来の吸収を隠してしまう。そこで、ピーク分離能が良く、 またピークが飽和しにくい近赤外領域に注目し、含水条件下での酸点評価を試みる。

・水をプローブとした濡れ性、細孔構造評価
 水分子は、水素結合を介した相互作用により水分子のクラスターを形成する。 近赤外領域に観測される水分子の結合音由来の吸収は水分子の水素結合状態に敏感 であり、その化学状態の違いはピークシフトとして明瞭に表れる。このことから、 水吸着した固体触媒の近赤外吸収スペクトルを解析することで、表面濡れ性や 細孔構造に関して様々な知見が得られる。

NIR

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