研究内容

持続可能な低炭素社会の実現にむけて、"非晶質"をベースとする機能性無機材料の創製と応用に関する研究を行っています。特に、次世代のエネルギーデバイスに必要な新しいイオニクス材料の開発に力を入れてきました。融液超急冷法やメカノケミカル法、液相法や気相法などの手法を用いて、イオンが高速に移動できる固体電解質材料を設計、合成し、物性や構造を明らかにしています。

また、イオニクス材料における固体界面を詳細に構造解析するとともに、上記の手法によって界面でのイオンや電子の流れを制御することで、蓄電デバイスに応用可能なナノ複合体電極の構築に取り組んでいます。さらに、得られたイオニクス材料を用いて全固体リチウム電池や全固体ナトリウム電池、キャパシタ、燃料電池、金属−空気電池など、様々な全固体エネルギーデバイスの実現にむけた基礎研究にも取り組んでいます。

現在の主な研究テーマは、次のとおりです。

新規固体電解質の開発

高い導電率を示す固体電解質(対象イオン種:Li+, Na+, Mg2+, H+, OH-)

融液超急冷法やメカノケミカル法、液相法や気相法、固相法などの様々な手法を用いて、新規な固体電解質の開発に取り組んでいる。特に、ガラスの結晶化プロセスを利用することによって、通常の手法では合成が困難なイオン伝導性に優れる結晶をいくつか見出した。例えばLi7P3S11結晶が析出したガラスセラミックス(結晶化ガラス)は室温で10-3〜10-2 S cm-1の固体としては極めて高いリチウムイオン伝導度を有する。固相反応では導電率の低い結晶(Li4P2S6およびLi3PS4)が得られるため、ガラス性液体から準安定相であるLi7P3S11を析出させることが重要となる。またナトリウムイオン伝導体としては、立方晶Na3PS4が高い導電率を示すことがわかった。また、粘土鉱物のひとつである層状複水酸化物(LDH)が水酸化物イオン伝導体として有望であることを報告している。また硫化物系だけでなく、酸化物系リチウムイオン伝導体の開発にも取り組んでいる。

様々な手法を用いた固体界面形成

液相法を用いた電極−電解質薄膜の作製

液相法の一つであるゾル−ゲル法を用いて、LiNbO3やLi2SiO3固体電解質薄膜およびLi4Ti5O12電極薄膜を作製した。また電極活物質のゾル−ゲルコーティングは、硫化物系固体電解質を用いた全固体電池の特性向上にも有用である。例えば、全固体リチウム電池の界面におけるSTEM-EDX分析の結果から、充電時にLiCoO2電極−硫化物電解質界面でCo, P, Sが相互拡散していることが明らかになっている。一方、LiCoO2粒子表面にLi2SiO3薄膜をコーティングすることによって、界面で生じる副反応を抑制可能である。またゾルや過冷却液体を利用することによって、固体−液体界面を固体−固体界面に変換することによって、良好な界面接触が得られ、エネルギーデバイスの高性能化につながることが期待される。

微粒子の合成と応用

全固体電池における固体界面接触を考えると、電極および電解質微粒子のモルフォロジーが電池の特性に影響する。高沸点溶媒を用いたホットソープ法の反応条件を制御することによって、様々な粒子形態、サイズ、結晶相を有する電極活物質粒子を合成可能である。

メカニカルミリング法を用いたナノ複合体の作製

全固体電池において電極活物質を最大限利用するためには、電極活物質−固体電解質−導電剤の間の接触面積の増大がポイントとなる。大きな機械的エネルギーを付与できる遊星型ボールミルを用いて、高容量正極として期待されているLi2S活物質と導電剤であるアセチレンブラックが硫化物電解質中に高分散した電極複合体が作製でき、これが全固体電池の電極として良好な特性を示すことを明らかにしている。

気相法による粒子へのコーティング

気相法の一つであるPulsed laser deposition(PLD)法を用いて、リチウムイオン伝導性硫化物薄膜を作製している。LiCoO2活物質粒子上へ電解質薄膜を直接コーティングすることによって、電極−電解質間の良好な界面接触と接触面積増大が可能となる。電極層における電極活物質密度を高められることから、全固体電池の高エネルギー密度化に有効な手法として期待できる。

安全性に優れた全固体エネルギーデバイスの開発

全固体二次電

硫化物固体電解質は室温でのプレス成型で良好な電極−電解質界面を構築可能であり、作製した全固体リチウム電池は室温で数百サイクルの繰り返し充放電が可能である。

研究内容紹介関連

全固体キャパシタ

プロトン伝導性のゲル電解質を用いることにより、液漏れがなく、広い温度範囲で作動する全固体キャパシタを作製した。

全固体燃料電池/金属-空気電池

水酸化物イオン伝導体である層状複水酸化物(LDH)は、全固体アルカリ形燃料電池の固体電解質として有望である。また金属−空気電池の開発にも取り組んでおり、LDHを空気極のイオン伝導パスとして配合することによって、亜鉛−空気電池の性能が向上することがわかった。