2.機能性リポソームの開発と薬物デリバリーシステムへの応用

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  リポソームは、リン脂質からなる数10〜数100nmの粒径をもつ微小なカプセルであり、その内部に様々な分子を封入することができると共に、生体適合性や生分解性にも優れていることから、その発見以来、薬物や生理活性物質の理想的な運搬体と考えられてきました。リポソームは、そのサイズから、体内の標的部位に薬物を選択的に送達する、部位特異的キャリアに適しています。
  薬の効果を最大限引き出すために、臓器・組織レベルあるいは細胞の内部まで薬物送達の正確なコントロールを実現する新しいリポソームテクノロジーが必要とされています。薬物送達システムとしてのリポソームの有用性をより高めるために、高度な機能をもつリポソームとして、(a)温度感受性リポソームおよび(b)膜融合能をもったリポソームの開発と応用について研究を進めています。

(b)膜融合能をもつリポソーム

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  細胞膜は、多くの水溶性物質や高分子を透過させません。したがって、細胞内で活性を発現するタンパク質、遺伝子、アンチセンス分子などの生理活性物質を有効に働かせるためには、それらを細胞質の中に導入する運搬体が必要となります。近年、遺伝子治療が一般的な治療技術として確立されつつある中で、遺伝子を細胞質内に効率よく移行させるシステムの開発が活発に試みられています。今のところ、遺伝子導入効率が高いという理由から、ウイルスがベクターとしてよく使われていますが、安全性の観点から非ウイルスベクターの開発が望まれます。
  膜融合能をもつリポソームは、細胞膜やエンドソーム膜と融合することによって、 内部に封入した物質を効率よく細胞質内に移行させることができるため、細胞質内送達システム として有用です。私たちは、膜融合活性をもついろいろな高分子を合成し、それらの高分子をリポソームの表面に固定化することによって、高い膜融合能をもつリポソームを作製しています。たとえば、酸性環境下で膜融合活性を発現する高分子サクシニル化ポリグリシドールをリポソームの表面に付けると、 そのリポソーム(SucPGリポソーム)は酸性環境において膜融合能を発現するようになります。このように酸性環境において膜融合能を発現するリポソームは、pH感受性リポソームと言われ細胞にエンドサイトーシスによって取り込まれた後で、酸性の内部環境をもつエンドソームと融合して細胞内に薬物を導入する運搬体として有用です。さらに、このような膜融合能をもつリポソームの遺伝子デリバリーシステムやナノワクチンシステムへの応用について研究してます。 →論文リストへ

最近の論文から


  • E. Yuba, A. Harada, Y. Sakanishi, K. Kono, "Carboxylated hyperbranched poly(glycidol)s for preparation of pH-sensitive liposomes", J. Control. Release, 149, 72-80 (2011).
  • E. Yuba, C. Kojima, A. Harada, Tana, S. Watarai, K. Kono, "pH-Sensitive fusogenic polymer-modified liposomes as a carrier of antigenic proteins for activation of cellular immunity", Biomaterials, 31, 943-951 (2010).
  • 河野健司,弓場英司,「細胞内で機能するリポソーム」,未来材料9 (3), 12-19 (2009).
  • N. Sakaguchi, C. Kojima, A. Harada, K. Koiwai, N. Emi, K. Kono, "Effect of transferrin as a ligand of pH-sensitive fusogenic liposome-lipoplex hybrid complexes", Bioconjugate Chem., 19, 1588-1595 (2008).