温度感受性リポソーム

  ある特定の温度において中に閉じ込めた薬物を放出するリポソームは、温度感受性リポソームと呼ばれています。特に、体温よりも少し高い温度において薬物を放出する温度感受性リポソームは、体の外からの患部の加温によって、体内の標的部位(例えば腫瘍部位)に選択的に薬物を送達する(ターゲティングと呼ぶ)システムとして使えるものと期待されています。
  従来、温度感受性リポソームは、リポソーム膜の相転移を利用して調製されています。ジパルミトイルホスファチジルコリンというリン脂質でできたリポソームの膜は、約42℃でゲル〜液晶転移を示します。この温度(相転移温度)においてこのリポソームは膜の構造が乱れるため、中に封入した薬物が漏れ出てくるわけです。
  私たちは、新しい方法、すなわち、温度感受性高分子をリポソームの表面に付けることによって温度感受性リポソームの作製を行っています。これは温度感受性高分子がある特定の温度(LCST)を境にして、親水性〜疎水性に急激に変化することを利用しています。下の図に示しますように、LCST以下の温度では、高分子は親水性であるため、リポソーム表面を覆いリポソームを安定化しますが、LCST以上の温度では、疎水性となってリポソーム膜と相互作用してリポソームを崩壊させたり、不安定化したりします。その結果、内部に封入していた薬物が急激に放出されます。また好都合なことに、温度感受性高分子が親水性〜疎水性に変わる温度(LCST)は、自在に調節することができます。したがって、望む温度において中に閉じ込めた物質を放出するインテリジェントなリポソームを構築することが可能です。
  さらに、このような方法によって調製した温度感受性リポソームは、温度によって膜融合能を制御できたり、細胞へのアフィニティーを制御できるといった、従来の温度感受性リポソームにはない高度な機能を発揮することが示されています。

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