高感度温度応答性リポソーム −癌だけを攻撃する癌化学療法を目指して−

温度応答性リポソームを用いた、癌だけを攻撃する化学治療の概念図

温度応答性リポソームを用いた、癌だけを攻撃する化学治療の概念図

  温度応答性リポソームを癌病巣に集積させる。そして、リポソームが腫瘍部位に十分集まった後、
標的部位を局所加温することで、抗癌剤を放出させ、癌病巣だけに作用させる。


  私たちが用いている感温性高分子は、体温では親水性でありながら、40℃以上で急激に疎水化する性質をもっています。したがって、この温度以上になると高分子の疎水化によってリポソームが壊れ、内部に閉じ込めた抗癌剤が瞬時に放出されます。また、このリポソームは親水性の高分子も複合化されているため、生体によって異物として排除されにくく、血液中を長時間循環することができます。
加温による抗癌剤の放出
  癌組織には毛細血管が多数存在していますが、これらの血管は正常部位の血管に比べて漏れやすい性質を持っています。従って、このリポソームは血液中を循環しながら癌組織において血管から漏れ出てそこに集積するため、十分にリポソームが集積した頃合いを見計らって癌組織を短時間だけ加温することで、リポソームから抗癌剤を一気に放出させ、癌組織の細胞を死滅させることが可能です。

  実際に、癌を移植したマウスを使って、抗癌剤を封入した温度応答性リポソームの治療効果を調べたところ、このリポソームを投与し癌組織を局所加温したときだけ、癌の成長が強く抑制されることが確認されました。この温度応答性リポソームと局所加温によって、癌病巣に抗癌剤が送り込まれ、癌細胞を強く攻撃したことを示しています。
マウスによる実験
  癌の治療法の一つである癌温熱療法は、癌病巣を局所加温し温熱によって癌細胞を死滅させるものであり、多くの医療施設で実施されています。このような治療法と温度応答性リポソームを用いることによって、癌病巣だけを選択的に攻撃する画期的な癌化学治療が可能になるものと期待されます。

  なお、この研究は、大阪大学大学院理学研究科 青島貞人教授、帝京大学薬学部 丸山一雄教授、国立国際医療センター研究所石坂幸人博士と共同で進められています。(DDSの研究は、様々な分野の研究者の協力が必要なのです!!)

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