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測れないものを測れるようにする化学(科学)〜新しい分析・計測の方法論開発を目指して〜

当研究室での卒業・修了研究を希望する学生の皆さんへ

 皆さんは「分析化学」というものにどんなイメージを持っているでしょうか?

 ある人は「滴定」というでしょう。またある人は「クロマトグラフィー」や「分光光度計」などの機器分析をイメージするかもしれません。いずれも間違ってはいないと思いますが,それらをもう少しかいつまんで言うと「測る」ということに収束すると思います。中でも分析化学では「測れるものを測る」のではなく,

「測れないものを測る・測れるようにする」

ということが最重要な課題です。これはこのサイトの「ごあいさつ」でも述べたように,

「測るのが難しくて困っている人たちの助けになる道具や方法を創りあげる」

つまり,

「こんなふうに測れればいいのに……」を形にする

ための研究分野であると言い換えられると思います。

 「こんなふうに測れればいいのに……」と思っている人たちは,実は世の中にたくさんいます。
例えば……

1: 自分が病気かどうか調べるためには病院に行ってから何日も待たなければならず,「今すぐわかればいいのに」と思う人たち

2: たくさんの病気を調べるには大量の血液が必要で,「1滴の血液で測れればいいのに」と思う人たち

3: 新しいインフルエンザの蔓延を食い止めるために,早く正確に結果が出る道具がほしいのに,早く測れる道具には偽陽性や偽陰性が出る道具が多く,「もっと正確に測れればいいのに」と思っている人たち

4: せっかく合成した薬品候補化合物の性能をたくさん調べたいのに,合成できる量が少ししかなく,「ひとかけらの試料でも測れればいいのに」と思っている人たち

5: 合成した薬品候補化合物の数が膨大すぎて,コスト的にその性能を全部測りきることができず,「もっとたくさんの試料を安価で同時に測れればいいのに」と思っている人たち

6: 生命の謎を解き明かしていくため,細胞の中にあるタンパク質や酵素,DNA,イオンなど,多種類の物質群を同時に調べたいのに,分析装置が違うために一つ一つ別々に調べなければならず,「全部一緒に測れればいいのに」と思っている人たち

7: 環境のフィールド計測など,その場で結果が知りたいのに,いちいち研究所に持ち帰っては大型の装置で測らなければならず,「手軽で持ち運べる道具があればいいのに」と思っている人たち

8: 一日に何百何千という試料を測らないといけないのに,1回何時間もかかる化学反応を何段階も繰り返す煩雑な操作の方法しかなく,「試料を1回入れるだけで測れればいいのに」と思っている人たち

……などなど,一般人から専門家まで,いろいろな人がおり,例を挙げればキリがありません。いくらでも出てきます。

 私の考える分析化学の使命は,「こんなふうに測れればいいのに……」と思っている人たちの助けになる道具・方法を化学の力で創りあげることだと思っています。そしてその内容を具体的に突き詰めて考えていくと,「迅速に!」「簡単に!」「少量でも正確に!(高感度に・高選択的に)」,そして最近では「ハイスループットに」という言葉に集約されてきます。
 それでは実際にそれを達成しようとすると何が必要でしょうか?分析に必要な化学反応は分子レベルでの事象を考えなければなりません。測りたい分子と相互作用する機能分子・材料はどのような分子構造であるべきであって,どのような機能が必要なのか?また,それらが性能を最大限に発揮できる反応場はどのような材料・空間で構成されるべきなのか?はたまたそれを誰もが使いやすい分析道具として仕上げるにはどんなデバイスにする必要があるのか?解決しなければならない課題は常に山積みです。

 そこで私は,当研究グループの研究の方向性を,
        「分子からデバイス化までを包括した分析化学の方法論開発」
                                   としました。

 よく化学の分野は「有機」とか「無機」とかいう言葉で語られることがあります。それもある側面でしょう。ですが,こと「分析」に限っては有機も無機もありません。

「分析マインド」とも言うべき「分析しようとする心」が最重要です。

 「どうやったらこの希薄な試料を高感度に測れるようにできるんだろう?」
 「どうやったらこの混じり物だらけの試料から特定の物質だけを測れるようにできるんだろう?」
 「どうやったら何段階もやっていた反応を1段階でできるようになるんだろう?」
 「どうやったらこれまで何時間もかかっていた分析時間を10分に短縮できるんだろう?」……

 実際,私たちが行っているマイクロ分析デバイス開発の研究(研究紹介のページ参照)でも,高感度な測定をするために特定の構造をもった有機分子が必要で,それが市販されていなければ,分子を合成するところから研究をスタートします。また,高感度な光学特性を示す基板が必要であれば,マイクロ・ナノテクノロジーを使って安価で使いやすい独自のセンサー基板を生み出します。そしてそれらを駆使して様々な化学センシング系・分離系を設計し,最終的には誰もが使いやすいマイクロ分析デバイスとして完成させるところまでを目標として研究を進めます。もちろん簡単なことではありません。そのプロセスのほぼすべてに未知の課題がたくさん詰まっていますし,それを解決するためには「有機」「無機」を含む多彩な化学の知識のみならず,ナノ・マイクロ加工技術やバイオ分野の技術など,実に多彩な知識と技術が必要とされます。
 当研究グループが目指す「分子からデバイス化までを包括した分析化学の方法論開発」という言葉の根底にあるものは,

「こんなふうに測れればいいのに……」と思っている人たちの助けになる道具・方法を化学の力で創りあげる心を持ち,積極的に新しい分析方法を開発していきたい

という強い思いです。
 分析化学という学問分野が持つ最大の魅力は,ノーベル賞の例を挙げるまでもなく,「こんなふうに測れればいいのに……」を実現できれば,その方法・結果が社会に還元され,社会の構造さえ変えていける学問である,という点だと思います。

 皆さんもこの魅力的な学問分野で研究してみませんか?分析化学研究グループはこの志に積極的に賛同していただける学生の皆さんの参加を期待しています。そして研究室の学生全員が,学術的にも興味深く,かつ役に立つ新しい分析方法・デバイス開発を楽しみながら進めて一人一人が成長し,卒業後に社会で活躍してくれることを望んでいます。

Enjoy Analytical Chemistry!!

大阪府立大学 大学院工学研究科 物質・化学系専攻
応用化学分野 分析化学研究グループ
教授 久本秀明


バナースペース

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